また1つ喧嘩をして傷をつくってしまった。
深い深い傷が僕らをえぐるように、深く深く君を傷つけていく。


『 ある雪の日 』


些細な理由が沢山あって、いっぱいいっぱい言葉の刃でぶつけてしまった。
キレてしまっていた、完全に。
何が正しいとか、そんなことも全然わからなくなって、
ばちゃん。と、まっくろい液体が空から降ってきて正気に戻った時にはもう君は居なくて。
ああ、僕はなんてことを。
君が出て行く音が、酷く耳に残った。
顔を真っ赤にして、今にも泣きそうな、あの酷い顔。
君には似つかわしくない、あの表情豊かなあの、酷い顔。
僕はなんてことを、今日で何回後悔したんだろう。
「・・・クレイグ。」
呟いた言葉は珈琲の香りが充満した部屋に、こだまして消えた。


「も・・・、しらねぇー・・・」
ちょっとだけ前、喧嘩をした。
それはもう入院するほどの大怪我をする、大喧嘩だ。
馬鹿な4人組が俺らを騙して、それさえもわからずに互いを嫌いになって。
今回は違う、自分で相手を罵って、傷つけた。
「くそ・・・」
ふらふらと、足は以前喧嘩をした広場へと自然に向いていた。
広場の隅っこにあるブランコに腰をかける。
なぜか家に帰る気にはならなくて、その場へ留まる、空はもう黒く沈む手前の赤。


「ア゛・・・、これ」
お風呂に入って、珈琲の付いた服を洗濯籠に入れて戻ってきた時に気付いた。
「ぼうし、だ。」
青い帽子に黄色のぽんぽん、部屋を出るとき勢いをつけすぎて取れでもしたのか。
外は紅い夕焼けが沈み終わる寸前で、暗い。
クレイグはいつもこれを被っていた、きっとこの帽子がないと明日は寒いから、届けに行って、謝ろう。
ふと寒気、気になって窓の方をのぞくと、外はもう春が近いというのに、雪が降りだしていた。


足で地面を蹴ってブランコを揺らしては、止める。
それの繰り返しをして、長いこと時間がたった。
隣のブランコにはほんのり雪が積もっている。
先ほどから降りだしたそれは、俺の服に小さいしみを作って消える。
さっきから頭が寒いと思って手を伸ばす。
毛糸で編まれている暖かいそれは、いつものところには無くて、冷たくてしめった自分の短い髪の毛があるだけだった。
「あー・・・」
帽子が無いだけでこんなにもやる気がなくなるのか。
少しの気だるさが、全身に行き渡って、歩くことも立つことさえも面倒くさくなった。
「どうしよう」
考えるのは帽子の行方、きっとあいつの家に忘れてきたんだ。


見つけた。
家に寄っても居ないというから、もしかしてと思って広場へ走った。
彼はよく、この場所に来る。と言っても、遊べそうな広場が此処ぐらいなんだからなのだけど。
隅のほうにあるブランコに腰掛けて、びくとも動かない彼の上には、ほんのり雪が積もり始めていた。
粉雪だった雪はいつの間にか牡丹雪に変わっていて、手にしている傘が重たい。
クレイグ。
心の中で叫んで広場の入り口まで、走った。
広場に入ってから、足の速度を緩めて歩く。
しゃくしゃくと雪を踏みしめる、その雪が鳴いたせいでクレイグは顔を上げた。


小さな音が気になって垂れていた頭を、上げる。
瞬間、積もっていたであろう雪がばさばさと落ちる音がした。
大きな黒い傘に、ちらちらと雪が積もっている、あれは誰だろう。
「クレイグ。」
傘が動いて、それで隠れていた顔があらわになる、少し不安そうなあいつ。
だいじょうぶだ、いきているさ。
目を合わせ、心で返事をして中指を立てる、さっきの喧嘩の理由の1つだ。
あいつはゆっくりと近づいて、俺たちを阻むのは、ブランコの柵だけになっていた。
その距離が嫌で、遠ざけたくて、目線は離さずに言う。
「俺は針になりたい。」
でもトゥイークはその最後の隔てをあっさりと避けて、俺に近づいてしゃがむ、黒い傘を俺に半分差し出して。
あいつはしんしんと降る雪が積もった新雪の上に足跡を幾つか作った。
大きな傘が、その上に雪を積もらせまいと己の上に雪をまた溜める。
「おまえを遠ざけれるくらい、大きくて、鋭いヤツ。」
うん。と頷くあいつはまるで子どもを慰める大人のようで。
ああ、俺は駄々をこねる馬鹿な餓鬼かよ。
「だけど、おれは、針にはなれないから、にんげんだから」
俺の話を聞きながら、頭に積もっていた雪を払って俺が忘れてきていた帽子をかぶせた。
その暖かさに、ほんの少し安堵して涙が出そうになった。
「だから、指を立てるんだ。」
おまえが俺を嫌いになってくれるように。
俺がおまえを好きにならないように、中指を針に見立てて立てる。
そうしたら、普通の友達で居られる気がして安心できるから。
トゥイークはそれを聞くとすくっと立ち上がった。
少し、我慢できなくなって俯くと、頭を上からぽんぽんと撫でるのがわかって、やっぱり顔を上げる。
「もう、帰ろう。」
冷え切った俺の手を握ってトゥイークは俺を「よいしょ」と引っ張って立ち上がらせた。

俺をちょっと斜め後ろに歩かせる、雪は降ってこない。
やっぱり大きな黒い傘が俺たちに雪が積もるのを拒むように、犠牲になって白く染まっていく。
「ご、ごめんね。」
前から、声がして俺は頷いて「俺も悪かった」といった。
繋いだ手はそのままだった。

「「あしたも、いっしょうにあそぼうか」」

一緒に同じことを言ったのに気付くのはすぐのこと。




(深い深い傷をつけた後には、きみと遊んで消してしまうのがいちばん。)





2008/04/05


トゥイクレは甘酸っぱいくらいがいいとおもうよ。
でも×に限りなく近いトゥイ+クレが一番好きだけどね!!